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製品技術情報

15.軸受の損傷とその原因・対策

軸受の不適当な取扱いや使用方法が、軸受の早期寿命や損傷の原因となる事が多い。そこでトラブル防止のための代表的な原因と対策について示す。

損傷事項 損傷状態 原因 対策
フレーキング 軌道の片側全周フレーキング 異常なアキシアル荷重 自由側軸受外輪のはめあいをすきまばめとする
軌道に玉ピッチのフレーキング 取付時の衝撃荷重 慎重な取付をする
運転休止時の錆 長期に及ぶ運転休止時は防錆する
軌道面・玉表面の早期フレーキング(図1) 過大荷重 適正な荷重条件
すきま過小 適正なすきま・はめあい
潤滑不良 適正な潤滑剤と量
取付不良 軸・ハウジングの精度見直し、取付方法見直し
保管・取扱注意
軌道に対し傾いたフレーキング(図2) 取付不良・芯出不良 取付・芯出作業注意
軸のたわみ 大きなすきまの軸受を選ぶ
軸・ハウジングの精度不良 軸・ハウジングの直角度修正
軌道の対称位置にフレーキング ハウジングの精度不良 ハウジング内径面の精度修正
圧痕 軌道に玉ピッチの圧痕・打痕(図3) 取付時又は落下による衝撃荷重 取扱注意
静止中又は低速回転中の過大荷重 静止荷重の見直し
軌道・玉表面に圧痕 砂・金属粉などの侵入 軸・ハウジングの洗浄、密封装置の見直し
焼付き 軌道・玉表面の変色 過大荷重 適正なすきま・はめあい
すきま過小 適正なすきま
潤滑不良 適正な潤滑剤と量
取付不良 取付方法と関連部品の見直し
スミアリング 軟化溶着 (図4) 潤滑不良 適正な潤滑剤と量
玉の滑り 適正な予圧
電食 軌道が洗濯板状の電食(図5) 電流の軸受通過によるスパーク アースを取る、軸受を絶縁する
破損 軌道面の割れ・欠け(図6) 過大衝撃荷重 適正な荷重条件
しめしろ過大 適正なはめあい
フレーキング又は焼付の進展 軸やスリーブの修正
玉の割れ・欠け 過大衝撃荷重 取付方法・荷重条件の見直し
運転中すきま過大 はめあいと軸受すきまの見直し
保持器の破損(図7) モーメント荷重 取扱注意
高速及び高加速度回転による衝撃 回転条件の見直し
潤滑不適当 潤滑剤・潤滑方法見直し
異物かみ込み 密封装置改善
かじり 軌道・玉表面のかじり(図8) 潤滑不適当(固いグリース、量不足) 柔らかいグリースを適正量封入
始動初期の加速度大(玉の滑り) 加速を急に行わない
摩耗 軌道・玉・保持器の異常摩耗(図9) 異物侵入 密封装置改善
保管・取扱注意
潤滑不良 適正な潤滑剤と量
はめあい面のかじり摩耗:クリープ(図10) しめしろ不足 適正なはめあい
スリーブの締付不足 適正なスリーブの締付け
はめあい面の赤色摩耗:フレッチング(図11) はめあい面の微少すきま しめしろを大きくする
軌道に玉ピッチのフレッチング:フォールスブリネリング 輸送中など軸受停止状態での振動 軸とハウジングを固定する
小さな振幅の揺動運動 潤滑剤に油の使用、予圧をかける
錆・腐食 軸受表面及び内部の錆 保管状態の不良 保管取扱に注意
空気中の水分の結露 保管取扱に注意
はめあい面の錆(図12) フレッチング しめしろを大きくする
変動荷重 はめあい面に油塗布
腐食 酸・アルカリ・ガスの侵入 密封装置の見直し
潤滑剤の化学作用 潤滑剤の見直し

フレーキング

フレーキング

(図1)

取付不良

取付不良

(図2)

圧痕

圧痕

(図3)

スミアリング

スミアリング

(図4)

電食

電食

(図5)

割れ

割れ

(図6)

保持器切れ

保持器切れ

(図7)

かじり

かじり

(図8)

玉すり傷

ボールすり傷

(図9)

外面クリープ

外面クリープ

(図10)

フレッチング

フレッチング

(図11)

錆

(図12)

転走跡と荷重のかかり方

軸受に荷重を負荷して回転させると玉との転がり接触により内外輪軌道面に転走跡が生じる。転走跡と荷重のかかり方は、次に示す8種類の図に概ね集約される。軸受が早期損傷する原因は、想定外の過負荷や取付誤差による場合が多い。軸受を分解して転走跡を観察すると、負荷された荷重の大きさや方向及び回転輪を推定することができるので、適切な荷重条件設定の手がかりとなる。

一方向ラジアル荷重(内輪回転-外輪静止)

内輪:転走跡は、軌道中央部の全円周上に見られ、幅は均一である。
外輪:転走跡は、軌道中央部に見られ、ラジアル荷重の負荷方向で最も広く、負荷方向から離れるに従って狭くなる。
一方向ラジアル荷重及び一方向アキシアル荷重(合成荷重)(内輪回転-外輪静止)

内輪:転走跡は、アキシアル荷重の負荷方向に偏り、軌道面の全円周上に見られ、幅は均一である。
外輪:転走跡は、アキシアル荷重の負荷方向に偏り、ラジアル荷重の負荷方向で幅が最も広く、全円周上に見られる場合と、一部不連続になっている場合がある。
一方向ラジアル荷重(内輪静止-外輪回転)

内輪:転走跡は、軌道中央部に見られ、ラジアル荷重の負荷方向で最も広く、負荷方向から離れるに従って狭くなる。
外輪:転走跡は、軌道中央部の全円周上に見られ、幅は均一である。
モーメント荷重(内輪回転-外輪静止)

内輪:転走跡は、軌道中央部の全円周上に見られ、幅は均一である。
外輪:転走跡は、対角線上に傾いて、幅が変化している。
一方向ラジアル荷重でラジアル予圧(もしくは運転すきまがマイナス)(内輪回転-外輪静止)

内輪:転走跡は、軌道中央部の全円周上に見られ、幅は均一である。
外輪:転走跡は、軌道中央部で、全円周上に見られる場合と、一部不連続になっている場合がある。ラジアル荷重の負荷方向で幅は最も広い。
アキシアル荷重及びモーメント荷重(内輪回転-外輪静止)

内輪:転走跡は、アキシアル荷重の負荷方向に偏り、軌道面の全円周上に見られ、幅は均一である。
外輪:転走跡は、アキシアル荷重の負荷方向に偏り及び対角線上に傾いており、軌道面の全円周上に見られ、幅は均一である。
一方向アキシアル荷重(内輪回転及び/又は外輪回転)

内輪:転走跡は、アキシアル荷重の負荷方向に偏り、軌道面の全円周上に見られ、幅は均一である。
外輪:転走跡は、アキシアル荷重の負荷方向に偏り、軌道面の全円周上に見られ、幅は均一である。
外輪が楕円変形した場合(内輪回転-外輪静止)

内輪:転走跡は、軌道中央部の全円周上に見られ、幅は均一である。
外輪:転走跡は、軌道の圧縮発生部で幅が最も広く、円周方向の長さは、変形量及び軸受の初期ラジアル内部すきまによって変形する。